任天堂が発表した2011年度の連結業績は、売上高が前年比36.2%減の6476億円、営業損失が前年の1710億円の黒字から一転して373億円の赤字。経常損失も1281億円の黒字から608億円の赤字となり、当期純損失では776億円の黒字から、432億円の赤字に転落した。

 売上高は2年前の2009年度の1兆4343億円と比較して半減。3年前の1兆8386億円と比較すると3分の1近くまで減少している。

ニンテンドー3DS

 そして、任天堂がゲームビジネスを開始して以来、初の営業赤字転落という事態に陥っている。わずか2年前まで2000億円を超える最終利益を確保していたのに比べると、その落ち込みぶりは驚きだ。

 業績悪化の最大の理由は、ニンテンドー3DSにある。

 任天堂の説明では、ニンテンドー3DSの販売台数は全世界で1353万台に達し、2012年2月に達成した500万台までの到達速度では、国内において過去最速だったとする。

 しかし、2011年2月26日の発売以降、売れ行きは決して好調ではなかった。発売から約2週間後に発生した東日本大震災の影響も売れ行きを鈍化させることにつながったといえ、これにソフトウェアの発売の遅れが重なった。

 2011年8月に、価格を2万5000円から、1万5000円へと、4割引ともなる大幅な値下げを行ったことで、ようやく売れ行きに加速がついた。

 だが、この値下げ効果も手放しでは喜べない。値下げに伴う在庫補償の問題に加え、現時点では赤字での販売を余儀なくされる状況が続いており、この「逆ざや」が解消するのは2012年度上期。それまでは、3DSは赤字の元凶という状態が続くことになる。

 「一度失った勢いを盛り上げるというのは、ゼロから勢いをつくるよりもはるかに難しい、これぐらいのことをやらなければ勢いが取り戻せない。大変痛みを伴ったが、必要だった」と、任天堂の岩田聡社長は、ニンテンドー3DSの値下げ措置を振り返る。

 さらに、円高で277億円の為替差損を計上した影響や、WiiやニンテンドーDSが、世界的に販売数量が減少したこと、これらハードウェアの値下げへの取り組みも、業績悪化に影響した。

 岩田社長は、「ニンテンドー3DSをあるべき普及の軌道に戻すために大幅な値下げをしたこと、期前半に有力タイトルがタイムリーに発売できなかったことなどが重なり、任天堂がゲームビジネスをはじめて以来、初めて通期営業赤字に陥るというもっとも厳しい状況になった。経営責任者として大変重く受け止めている」と語る。

ゲームをコア事業に位置づけるソニー

 これに対して、ソニー・コンピュータエンタテインメント、マイクロソフトはゲームビジネスで成長へと転じている。

 ソニーの平井一夫社長は、4月に行った経営方針説明のなかで、エレクトロニクス事業の重点領域のひとつに、ゲーム事業を掲げながら、「エンタテインメント事業は、安定した基盤を持つ事業へと成長した。今後も、PlayStation VitaやPlayStation 3に加え、周辺機器によって、堅実な利益を創出する」と語り、2014年度には、ゲーム事業で売上高1兆円、営業利益率8%を目指す計画を明らかにした

ソニーの平井一夫社長は、4月に行った経営方針説明のなかで、2014年度には、ゲーム事業で売上高1兆円、営業利益率8%を目指す計画を明らかにした。

 ネットワークを通じたエンタテインメントビジネスも加速し、ゲームソフトのダウンロード販売であるPlayStation Network、定額課金サービスであるPlayStation Plus、カジュアルゲーム対応端末向けにコンテンツを提供するPlayStation Suiteによって、この分野でも事業拡大を図る考えだ。

 米マイクロソフトでは、Xbox 360事業を展開するEntertainment&Devices事業部の2012年1~3月の業績が、前年同期比16%減の16億2000万ドル、2億2900万ドルの赤字と厳しい内容となっているが、クリスマス商戦を含む2011年10~12月における売上高は、前年同期比15%増の42億4000万ドルとなり、同社の5つの事業部門の中で最も高い成長率を記録するという好調ぶりをみせていた。

 Xbox 360の累計出荷はすでに6600万台を突破。Xbox LIVEの登録者数も全世界で4000万人に達した。また、Xbox向けのKinectも1800万台の累計出荷し、2011年3月には発売後2ヵ月の販売台数で、iPhoneやiPadを抜き、短期間で最も売れた家庭用電化製品端末として、ギネスに認定されている。

 最新四半期の決算では、クリスマス商戦での反動が見られたものの、米国市場では、15ヵ月間に渡り、最も売れたゲーム専用機の地位を維持しているという。

「任天堂らしい利益」は2013年度以降に

 では、任天堂は、業績回復に向けてどんな取り組みをするのか。

 ハードウェアでは、ニンテンドー3DSが、前年比36.7%増となる1850万台、Wiiは今年の年末商戦に発売予定のWii Uを含めて、前年比6.7%増の1050万台。ニンテンドーDSは、前年の510万台から半減となる250万台を計画しており、ハードウェアビジネスについては比較的慎重な見方をしている。

 ニンテンドー3DSでは、2012年4月28日での韓国での発売など、アジア地域への販売強化が鍵となり、これら地域での販売が量産効果による逆ざや解消に貢献することになる。

 これに対して、ソフトウェアでは、3DS用ソフトが前年の3600万本から7300万本へと倍増を見込んでいる。ここには、デジタル配信である「ニンテンドーeショップ」によるパッケージソフトのダウンロード販売も含んでいる。

 同社によると、ニンテンドー3DSのインターネット接続率は、日本および米国市場では、70%を超えており、欧州、オーストラリアでも、約50%となっている。これまでの任天堂の携帯型ゲーム機の中で、最も高いインターネット接続率を実現していることが、ニンテンドー3DSおよびWii U向けのオンライン販売である「ニンテンドーeショップ」の広がりにどうつながるかが注目される。

 だが、海外でのニンテンドー3DSの普及が遅れていることから、ニンテンドー3DS用ソフトウェアの販売計画は、ニンテンドーDSの時よりも控えめな数字に留めているのも事実だ。

 特に、ニンテンドー3DSでは、ユーザー拡大型のソフトウェアの展開が遅いことを認めながらも、「これまでは奥の深さを狙った。今後についてはこれから変わっていく。幅の広さと深さの両方を充実させることで、一つのプラットフォームで、より幅広いお客様に満足してもらえるようにしたい」とする。

 同社では、ニンテンドー3DS向けに、8月には「NEW スーパーマリオブラザーズ2」を、2012年秋には、「とびだせ どうぶつの森」をそれぞれ発売する予定であり、東北大学の川島隆太教授と一緒に開発を進めている、集中力とワーキングメモリーを鍛える「鬼トレ」も今年夏に国内で発売。これらのソフトウェアの売れ行きも注目されよう。

 「このほかにも、今期発売予定の未発表タイトルがある。自社ソフトだけでも、かなりリッチなソフトラインナップを提案できる」と、岩田社長は自信をみせる。
一方で、年末商戦向けに発売される新製品「Wii U」に関しても、やはり最初に、どんなキラーアプリケーションが登場するかが注目される。

Wii Uの最終形は今年6月に発表される予定

 今年6月に米ロサンゼルスで開催されるE3において、その最終形が発表されるとともに、年内のソフトラインナップについても発表されることになる。業界関係者の関心は高まるばかりだ。
6.2型タッチスクリーンを搭載した新たなコントローラを採用したWii Uの操作性を生かしたアプリケーションの登場に期待したい。

 ここでは、2012年8月2日にWii版が発売される「ドラゴンクエストX」(スクウェア・エニックス)が、時期未定ながらも、Wii U向けに発売されることが公表されており、これがWii Uの販売にも影響を与えることになるだろう。

 任天堂によると、上期までニンテンドー3DSの赤字販売が続くこともあり、2012年度通期の業績見通しでは、営業利益は350億円、経常利益は350億円、当期純利益は200億円という黒字幅に留まると予想。売上高では26.6%増の8200億円と見込んでいる。岩田社長は、「任天堂らしい利益を目指す」とするが、それこそが2013年度以降の課題となる。

ソフトウェアビジネスで新たな挑戦へ

 任天堂がゲームビジネスにおいて重視しているのは、ソフトウェアだ。

 そして、ソフトウェアで収益を稼ぐというビジネスモデルには変化がない。任天堂の3代目社長を務めた山内溥氏は、「お客様はゲーム機が欲しいのではなく、ゲームソフトで遊びたい」と、常々語っていた。

 岩田社長も、「お客様がゲーム機を購入する目的は、よくできたパッケージのゲームソフトを遊びたいから」と語る。

 つまり、ニンテンドー3DSでも、Wii Uでも、その普及戦略には、キラーアプリケーションの存在が重要であるという姿勢は変わらない。

 また、新たなプラットフォームの展開については、次のように語る。

 「定番タイトルの活性維持と、有力タイトルを定期的に継続投入することが必要。特に、昨今は、商品が過去のものになってしまうスピードが上がっているため、定番タイトルの活性を維持しながら、ある程度以上の密度で、有力タイトルを継続的に市場に投入していく必要がある。任天堂プラットフォームでは、時に自社タイトルばかりが市場で目立ちすぎであるという批判があるが、プラットフォームを普及させていく過程では、ファーストパーティソフト(=任天堂製のソフトウェア)でプラットフォーム普及を牽引することは、プラットフォームホルダーとしての任天堂の重要な役割である、というのが私たちの考え方。今期は、通期にわたって、それが維持できるようにすることで、目標を達成したい」とする。

 そのアプリケーション販売において、今年、任天堂は大きな挑戦を開始する。それが、先にも触れたニンテンドーeショップである。

 New スーパーマリオブラザーズ2から開始するニンテンドーeショップは、原則として、パッケージとデジタルの2つの形態で併売する仕組みを取りながら、デジタル形態でダウンロードしたソフトは、ユーザーのSDカードに格納し、ダウンロードした本体でのみで使用できるという仕組みにする。パッケージ版では、家族や友人の間でのソフトの共有ができたが、これがデジタル版では利用できない。しかし、複数のソフトウェアを本体に格納したまま持ち歩くことができるという利点があるという。どうぶつの森シリーズなど、毎日利用するソフトを複数利用している際などには、カードを差し替える必要がなく利用できるため便利だと強調する。

 また、小売店と連動する点も特徴だ。小売店の店頭やオンライン・ショッピングサイトでソフトウェアの購入手続きを行うと、16桁のソフト引き替え番号を発行。それをニンテンドーeショップに入力すると購入できるという仕組みを用意する。

 「いつも慣れている方法で、ソフトを購入してもらうことで、オンラインによる購入のハードルを下げること、小売店にとっては、品切れや在庫負担の心配がないというメリットがある」という。同時に、「在庫リスクの問題によって、これまで、当社の商品を取り扱っていただくことができなかった販売チャネルを通じて、商品を展開する可能性も広がる」と期待を寄せる。

 岩田社長は、「高額課金を誘発するガチャ課金型のビジネスは、今後とも、行うつもりはまったくない」としているが、ニンテンドーeショップの仕組みを利用して、どんな新たな提案が行われるのかといった点も注目したい。

ゲーム人口拡大のの主役に返り咲けるのか?

 これまで任天堂は、「ゲーム人口の拡大」という基本戦略を掲げ、ゲームビジネスを推進してきた。

 年齢、性別、ゲーム経験の有無を問わずに受け入れられる製品を投入することで、ゲーム人口を拡大し、それによって事業成長を遂げてきたのは周知の通りだ。

 過去のハードウェア、ソフトウェアをみても、まさにその言葉を具現化するような製品が相次いでおり、新たな需要層を開拓してきた。

 世界初の3Dゲーム機の登場やWiiによる体感型ゲームの登場などのほか、最近では、「すれちがい通信」や「いつの間に通信」が、これまでのゲーム機にはなかった機能として注目されるものだといえよう。

 来年には発売30周年を迎えるファミコンは、当初は子供のためのゲーム機としてスタートしたが、その後、学生やビジネスマン、女性、シニア層へとターゲットを広げてきたことは、同社の歴史が証明している。

 しかし、残念ながらこの1、2年は、「ゲーム人口の拡大」という役割を任天堂が果たしてはいないともいえる。

 ゲーム人口を拡大する役割を担っていたのは、iPhoneやiPadを発売し、55万種類以上のアプリケーションを提供するAppStoreを通じて数多くのゲームソフトを提供してきたアップルであり、携帯電話やスマートフォンで利用できるカジュアルゲームを提供してきたGREEやDeNAといったソーシャルゲーム陣営である。

 任天堂は、改めて「ゲーム人口」を拡大するような企業に成長することができるのか。
任天堂の岩田社長は、「ニンテンドー3DSやWii Uは、単なる改良版をつくったという意識ではなくて、従来は不可能だったことを実現可能にするものだと考えている」と自信をみせ、「将来、ニンテンドー3DSの独自の機能、そしてWii Uの独自の機能を、うまく使ったね、と言っていただけるソフトを提案できるように努力する」と語る。
いずれにしろ、任天堂のこれからの成長は、ニンテンドー3DSと、Wii Uの2つのプラットフォームの成否による。

 ソフトウェアの収穫期とされる2年目を迎えたニンテンドー3DSの成長、そして、今年の年末商戦向けに発売することが決定したWii Uが、市場に対してどんな提案をしてくれるのか。対応ソフトウェアの動きや、新たに開始するデジタル配信の動向を含めて注目されるところだ。

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